はじめに
知的財産管理技能士の勉強をしているときに、よく「IPランドスケープ」なる言葉をよく見かけました。
なにやら、「IPランドスケープ」という考え方は、最近の流行りらしいのです。将来的に、我が身としては、企業の知財部に就職したいと考えていることもあり、押さえて置かなければならないタームであろうと思いました。
そんなときにジュンク堂書店で運命的に出会ったのが、『IPランドスケープ経営戦略』でした。
評価
大変よい。
この本は、経営と知財の密接な関係性を考えるための足がかりとなります。
また、この本は、知財の情報をどのように経営戦略に活かすのか、具体的な事例とともに解説してくれています。そのため、ある程度の知財の知識(3級・2級知的財産管理技能士)レベルさえあれば、すんなりと理解できます(本に書いてあることが実践できるとは、言っておりませんので、くれぐれも誤解なさらないように笑)。
目的と得られた知見
僕のこの本を読む目的は、「IPランドスケープ」の意味を知ることでした。
Q、そもそも「IPランドスケープ」とはなんぞや。
A、端的に述べると、この言葉は、2通りの意味合いで使用されるらしい。
1:「知財を中核にした経営」それ自体のこと
2:「経営に活かすための知財やそれら知財情報の分析」等の手法のこと
つまり、広義と狭義の意味合いがあり、使い分ける必要がある。
感想
最初の章には、「知財立国」としての日本の歴史?が軽く取り上げられています。
その中でも、最も印象に残ったのは、p25の箇所です。
そこでは、日本のメーカーがなぜ後発の国々に技術的に追い抜かれてしまったのかについて言及しています。
製造ラインの歩留まりを高めるノウハウが、特許の情報だけで判明するわけではない。だから、韓国、台湾、中国の競合会社は1990年代から、日本の電気大手に勤めていた技術者に接近し、自国に呼んで技術指導のアルバイトを依頼したり、年収1億円などという高額報酬で日本の技術者をヘッドハンティングしたり、リストラされた技術者を募集したりして、製造ラインの歩留まりが向上するよう工夫を重ねていった[渋谷、2019:p25]。
まじで?
という感じですね(笑)。
他には、ハニトラとかもあったのでしょうか。。。。。。
(スパイ映画の見過ぎですかね)
いずれにしても、後発の国は、技術者を招いて、特許技術の改良を試みていたということは、リアルに伝わってきました。
さらに、驚いた点は、同ページ及び次のページで以下のことが述べられていました。
日本側が2000年代半ばに気づき、2010年代に新日鉄住金や東芝などに対する韓国、中国などの競合会社の露骨な産業スパイ行為が明らかになったことで、ようやく対策が取られた時には、すでに韓国、中国企業からみて、「もはや日本企業から奪うべき技術はない」という事態になってしまっていた。2010年代までの日本企業は、知財経営の追求どころか、技術流出にすら無防備だったのである[渋谷、2019:p.p.25-26]。
日本企業は、本当に何も対策を講じていなかったのでしょうか。
あれ、そういえば、上記で取り上げられている企業(分社)は現在だと、どちらも改名していますね。
新日鉄住金は、日本製鉄ですよね。
東芝メモリは、キオクシアですよね。
閑話休題。
次に、驚いた点は、「閑職」とみられた知財部門ということです。
なんでも、多くの日本企業において、知財部門は、戦略部門と認識されておらず、「明細書」を書くための役割を主に担っているという認識しかないらしいのです(渋谷、2019:p67参照)。
「縁の下の力持ち」じゃないの……
最後に、後半部分は、ケーススタディがあります。
アップルのデザイン戦略を読み解く
グーグルの自動運転
三井化学の注力技術
ミネベアとミツミのM&A戦略
ダイソンの参入分野の予測
すべて興味深かったのですが、その中でも、特に「三井化学」の注力技術の特定方法が面白かったです。
分析の内容としては、以下のようでした。
・経営計画と出願状況の確認
・出願状況の分析と重要技術の特定
・非引用回数の分析と重要技術の特定
特許分類のコード(技術内容)から、近年の注力技術分野を特定するとは思いもよりませんでした。
それと、筆頭発明者から共同発明の関係性もわかってしまう点は、ぞっとしますね。たしかに、特許の出願によって、発明者も公開情報となってしまいますからね。
他にも特許情報の活かし方が明記されています。
おわりに
小学生以下の感想で申し訳ないですが、公開情報から得られるデータを整理するだけで、こんなにも発見があるとは、やはり情報の整理は大切ですね(笑)。