はじめに
僕は、2019年まで文化人類学の専攻でした。
一応、教授から院に進学しないかと声をかけてもらえるくらいに、勉強(研究と呼べるレベルでないです笑)に取り組んでいました。しかし、思うところもあり、理転を決意したという、経歴の持ち主です。
そのような僕が、文化人類学の勉強に取り組む中で、役に立ったなと思う書籍を中心に紹介します。
そして、新入生で文化人類学を専攻しようと考えている人に向けて、おすすめの書籍を紹介します。
ざっくりと文化人類学という学問の説明
まずは、この記事をお読みになっている人は、文化人類学とはどのような性質の学問なのかわからないという前提に立ち、説明しますね。
端的に言って、「文化」や「人」について考察する学問です(もしも学者の方がお読みなっていたら、厳密性のない定義で申し訳ありません)。
そのため、取り扱っている分野は、幅広いです。
それこそ、言語分析から病気と治療などの医療人類学まで様々な専門があります。
つまり、隣接している分野はかなりの数あります。
そのため、かりにこの記事で紹介する書籍を読んで、やっぱり文化人類学は興味ないなと思っても、比較的次の分野に移りやすいと思います。
もちろん、僕のように理学部物理学科を受験し直すという一見、意味不明な場合でも良いと思います。
だって、学問の「入り」はどこでも良いと思うからです。
はじめから、自分のやりたいことと適性が合致している場合は、幸運です。しかし、僕の場合、先見の明があるわけではないので、取り組んでみないとわからないです。だから、僕は専攻分野を変更することに、大いに賛成です。もちろん、批判はあると思いますが……
などと、話が逸れました。
とりあえず、ここで述べたかったことは、文化人類学という学問の取り扱っている分野は多岐に渡っているということです。
おすすめの書籍と教科書一覧
ここでは、僕が勉強していた中で、わかりやすいなと思った書籍を中心に紹介します。
教科書
E.A.シュルツ、R.H.ラヴェンダ、秋野晃司他訳、『文化人類学Ⅰ』、古今書院、1993年
古いものですが、とっかかりとしておすすめです。
『文化人類学Ⅰ』、『文化人類学Ⅱ』では、人類学とはどのような学問なのかを丁寧に説明してくれます。
それこそ、文化相対主義と自民族中心主義という概念から、フィールドワークの意義や意味など重要事項について解説してくれています。そのため、この2冊でほぼ重要概念は理解できると思います。
実際、座学の講義についていくのは、この2冊だけでも可能だと思います。
- 作者: エミリー・A.シュルツ,ロバート・H.ラヴェンダ,Emily A. Schultz,Robert H. Lavenda,秋野晃司,吉田正紀,滝口直子
- 出版社/メーカー: 古今書院
- 発売日: 1995/06
- メディア: 単行本
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波平恵美子他、『文化人類学【カレッジ版】第3版』、医学書院、2015
比較的新しい教科書です。
そのため、最新の研究内容が載っています。
医学書院から出版されていることもあり、健康、病気、医療、人間の生と死に関する記述が多いことに特徴があります。
太田好信他、『メイキング人類学』、世界思想社、2005年
この教科書は、フィールドワークという実地調査を中心に文化人類学とはどのような学問なのか、リレー形式でさまざまな著者が解説してくれています。例えば、実地調査と民族誌について、詳しい解説があります。方法論として、実地調査と民族誌を書くだけではないのだと理解できます。
文庫本
マルセル・モース、『贈与論』、岩波出版、2014年
贈与や交換と言った行為が、社会の中でどのような意味を持つのかを解説しています。「ポトラッチ」という交換儀礼について解説しています。端的に述べると、功利主義的な交換儀礼では説明がつかないことを述べています。
メアリ・ダグラス、塚本利明訳、『汚穢と禁忌』、ちくま学芸文庫、2009年
穢れが、聖なるものと表裏一体ということがわかります。
- 作者: メアリダグラス,Mary Douglas,塚本利明
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/03/10
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ファン・へネップ、綾部恒雄、綾部裕子訳、『通過儀礼』、岩波出版、2012年
人が生まれてから死ぬまでの儀礼を、分離・過渡・統合という流れで通過儀礼を捉えています。儀礼研究の古典です。
専門書
ベネディクト・アンダーソン、白石隆、白石さや訳、『定本 想像の共同体』、書籍工房早山、2007年
国家という枠の中に、国民が存在していますよね。その国民を「想像の共同体」であるととらえ、国民意識が作られていく過程が丁寧に解説されています。
いわゆるナショナリズムの形成について述べられている本です。言語と資本主義と印刷技術が合わさることで、想像の共同体がつくりあげられていくということを述べています。
定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)
- 作者: ベネディクト・アンダーソン,白石隆白石さや
- 出版社/メーカー: 書籍工房早山
- 発売日: 2007/07/31
- メディア: 単行本
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中沢新一監修、『現代思想 総特集 人類学のゆくえ』、vol44-5、青土社、2016年
哲学よりの内容が多数載っています。
存在論的だとか現象学的だとか、なんだか小難しい概念が出てきます。
まあ、最新の学者はこんな研究に取り組んでいるんだなくらいの参考になるのではないでしょうか。
ちなみに、2017年に『人類学の時代』という特集も組まれています。
- 作者: 中沢新一,上橋菜穂子,春日直樹,檜垣立哉,エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ,マリリン・ストラザーン,フィリップ・デスコラ,箭内匡,奥野克巳,金子遊,久保明教,清水高志,水野千依
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2016/02/01
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- 作者: 中沢新一,山極寿一,Ph・デスコラ,T・インゴルド,A・ツィン,出口顯,箭内匡,大村敬一,石倉敏明,近藤宏,清水高志,柳澤田実,岡本源太
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2017/02/03
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大野哲也、『旅を生きる人びとーーバックパッカーの人類学』、世界思想社、2012年
筆者自身もバックパッカーとして、世界中を旅したそうです。
そのような経緯から、日本人バックパッカーをフィールドワークしています。
文化人類学の研究にはこのような分野があるのかと思いました。
読みやすいのでおすすめです。
波平恵美子、『いのちの文化人類学』、新潮選書、1996年
生と死についての生命観を中心に、民俗学、文化人類学の資料を通して、古今東西の医療について知ることができます。
おわりに
文化人類学に興味を持っている人におすすめの書籍を紹介してきました。
教科書から古典と呼ばれるものや最新の研究まで、できるだけ多くの本を紹介してきました。
しかし、いささか堅苦しいものばかりな気がしますが(笑)。