はじめに
以前、膨大な数の観光客が訪れる某市に住んでいました。
その時、観光場所として、場所が消費されるということについて調べました。
そして、読んだのが、この『場所の現象学』という本でした。
評価
よい。
場所と没場所性の性質が、詳しく述べられています。そして、その「場所」と「没場所性」が表裏一体として、密接に関係していることがわかります。また、そのような場所を作り出している(意味を作り出している)のは、人間でありことがわかります。
この本の目的
場所が経験される仕方の多様さを確認すること。また、私たちの経験や意識がどのように景観に表出されるのか、「場所」を探求すること。
そのために、筆者は、以下の4つのテーマを考察しています。
- 空間と場所の間の関係性を検討すること。
- 人々が生活し経験する場所との間に、深い心理的つながりがあること。
- 場所のアイデンティティと場所に対する人々のアイデンティティを分析すること。
- 場所や景観が作られる時、場所のセンスや場所への愛着がどんな形で現れるのか。
感想
場所というものが、 非常に興味深いものだなと思いました。
どんな場所にも、地域の特性というものがあることを認識できました。
例えば、多くの文化・社会が、「聖なる場所」と「俗なる場所」や「中心」と「周縁」と言った対立概念を場所に表出させていたことを知りました。
確かに、高校の世界史の時に、古代ギリシアの世界を扱っているページにアクロポリスやアゴラといった場所があったことを学習したことを思い出しました(笑)。
また、場所に意味を持たせているのは、人間自身であることを理解できました。
例えば、ひさびさに故郷へと帰省した時に、とくに景観が変化していなくても、様々な感情を抱くと思います。すくなくとも、僕はそうです(笑)。
その時、その場所で以前体験したことやそこでの思い出を外部から観察することによって、場所に意味を持たせているからこそ、故郷としてその場所を意味づけているわけです。そう例えば、彼女とデートした公園だなとか、最後に会った公園だなとか――以下略。
僕がもっとも興味深いと思ったことは、観光に関する人々の態度とその場所を消費することの意味です。
つまり見る価値があると誰かが決めた美術作品や建築物を観るためのガイドツアーだ。これは、ヨーロッパ中の名所から名所へとめぐるように案内された飛行機やバスいっぱいの旅行者群だけにみられるのではなく、ミシュランのガイドブックのような選りすぐられた案内書にもみられる。それらは、景色や町や村やフラスコ画でさえもランクづける。その場所がどれほど美しく珍しいものか、また行ってみる価値があるかどうかをみんなが知ることができるようにと、便利な三つの星で区分されている[エドワードレルフ、1999:p199]。
つまり、多くの人に効率よく消費しやすいように、場所を作り上げているわけですよね。例えば、ランク付けすることやパッケージツアーを作ることやそれに参加することによって。
なんか、悲しいですよね。
本来はその場所には、観光客以外の地元の人々の暮らしがあったり、そこでしか経験できない生活があるはずなのに……。
それに、みんなと同じ場所をめぐって、そこで同じ経験をしても……。
だからといって、没場所性がダメだというわけではないですが。だって、例えば、経済の発展に貢献しているという側面もあるはずですから。
また、そのような没場所性の例として、ディズニー化というテクニカルタームが取り上げられています。
この「ディズニー化」が生み出すものは、実在の地理的環境とはほとんど無関係な歴史や神話、現実、幻想のシュール・リアリスティックな組み合わせから作られた、不条理な合成された場所である[エドワードレルフ、1999:p217]。
ディズニー化とは、空想と現実を科学技術によってすり合わせて、それを提供することで、その場所へ訪れた人々にユートピアを実現させているそうです。
つまり、ディズニー化は、人々に興奮や熱狂を与える娯楽施設として、非日常的な経験を与えている場所だと(笑)。
まあ、確かにそうですよね。
夢の国ですもの、日常のことなど忘れたいものですよ(笑)。
すくなくとも、そこにいる間は……。
そして、ディズニー化の特別な場合があるそうです。
それが、「博物館化」です。
博物館化とは、「歴史の保存と再建と理想化」だそうです。
つまり、過去に対するイメージを再構築して、そのイメージを再現して、博物館のように展示されているような場所だそうです。
例えば、古代の村や町を模型によって展示されている場所などでしょうか?
記念碑とかですか?
おわりに
この本を読み終えて、場所を考えるきっかけになりました。
- 作者: エドワードレルフ,Edward Relph,高野岳彦,石山美也子,阿部隆
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1999/03/01
- メディア: 文庫
- 購入: 6人 クリック: 66回
- この商品を含むブログ (26件) を見る